小さな村に「あい」という娘が住んでいた。 ──あいつは、もののけなんだぞ。 ──あいつがいると、気味悪いことが起きるんだ。 死んだ蝶を手に乗せたら、生き返ったという。 ──村のみんなも気味悪がってる。あいがいると、いつか村がひどい目にあうって…。 そんな、あいの遊び相手は、いとこの仙太郎だけだった。 「あの蝶は死んでなかったの、だから…」 「俺は、お前がもののけだなんて思ってねえ」 雪の夜のこと。 あいの家に、村人がやってきた。 それは、あいを山神に捧げるという話。 このあたりには「七つ送り」という風習があった。 五穀豊穣を願って、七年に一度七歳になる娘を山に捧げていた。 「あいが、もののけだから、そう思ってるから、そうだろ」 ──村のためだ。 だが、あいの両親は村の掟に背き、あいを助けようとする。 仙太郎に、 ──お前も力を貸しておくれ。 ──このままじゃ、あいが不憫でなんねえ。 「わかった。俺、あいを守る」 あいは、七つ送りの巫女となった。 夜…。仙太郎が山へと向かう。 あいは、かくまわれていた。 「着替えと食い物を持ってきたぞ」 「ありがとう」 6年の歳月が流れた…。 さくらの花はいつ開く山のお里にいつ開く…♪ あいと仙太郎が楽しそうに歌っている。 満月の夜。あいは水浴。 「ずっと、このままならいいのに」 だが…村人たち に見つかってしまった。 ──米が取れねえのは、コイツがしきたりに背いたからだ。 あいは捕らえられた。 山神の許しをこうために、両親とともに… 穴に落とされた。 「あい!」 穴をのぞいた仙太郎の涙が、あいのほおにかかり、あいの意識が戻った。 「仙太郎」 だが、仙太郎に農具が渡された。 神主が言う。 ──仙太郎。この6年、山神さまを欺いてきた罪をつぐなえ。お前がわびねば始まらん。 「いやだ」 ──村のためだ。このままじゃみんな飢え死にしちまうんだぞ。 「仙太郎」 仙太郎は、あいと村人たちとの板ばさみになった。 そして…穴の中に土が落ちていく。 「わたしを守るって、信じてたのに」 「信じてたのに」 村人たちが埋めにかかった。 「仙太郎」 「怨んでやる」 「お前たちみんな」 「死んでも、怨んでやる!」 光が消えた。 それからどれだけたったのか、満月の夜。 土の中から…手が。 何かにせかされるように旅立つ仙太郎。 彼は見た。 燃えている村、そして… さくらの花はいつ開く山のお里にいつ開く…♪ あいは村を焼きつくす。 そして彼女と両親が埋められた神社へと戻ってきた。 復讐を終えたあいは、その場に泣き崩れた。 「気が済んだか、あい」 それは、鳥居から下がっている蜘蛛。 「あ…」 あいは水中に落とされた。 「あっ…」 そこであいが見たのは、木の根に絡みつく二つの「ドクロ」だった。 あいの両親。 あいの髪をすいてくれた母。笛を吹いてくれた父。 「あい。お前はおのれの怨みを解き放ち、新たな怨みを生み出した」 「その罪は重い」 「わたしは悪く無い」 「悪いことなんてしてない!」 「悪いのはあいつらよ!」 「お前が地獄へ下ることは許されぬ」 「現世に留まり、おのれの罪を身をもって知るのだ」 「もしあらがえば、愛する者たちの魂は永遠にさまようことになるだろう」 「あ」 気が付くと、あいは着物を着て河原にいた。 近くには舟がある。 「いまよりお前は、閻魔あい、地獄少女だ」 「ジゴク、ショウジョ…」 地獄少女が生まれた。 以来、時代を超えて人の生み出す怨みの果てを見つめることになる。 [編集] 無料ホームページ作成は@peps! |