一期26話 最終話「かりぬい」

 わたしは閻魔 あい。

地獄送りの舟。

わたしを監視していた蜘蛛が告げた。


「あい。お前は禁を犯した。閉ざすと誓った心の扉を開けてしまったのだ。お前にはもうこの仕事を任せることはできない。わたしと共に、地獄へ帰るのだ」

「そして…罪のいましめを受けよ」


「まだ駄目。地獄へは戻れない」

わたしは蜘蛛の手を逃れた。

柴田親子を引き離した。

そして、つぐみへ…。


「あなたのお父さんのこと、教えてあげる」

柴田が、やり直したいという妻あゆみを追い返し、彼女は事故死。

「俺の、せいじゃない」

「悪いお父さんね」

「お父さんが許してあげていれば、お母さんは死なずにすんだのに」

「わたしが、あなたのお父さんを地獄へ流してあげる」


わたしは、つぐみに藁人形を渡した。

捕らえた柴田一に、一目連と骨女が話していた。


「気が遠くなるような時間をかけて、お嬢は罪を洗い流してきた。自分の怨みを忘れ、心を閉ざして」

「それを、あんたたち親子は一瞬にして振り出しに戻しちまったのさ」

「先祖がお嬢の怨みの相手だったなんて、あんたらも驚いたろ。最悪の縁だよな」

わたしは、つぐみに母・あゆみの苦しむ姿を見せた。

「糸を引いて、心を解き放って」

つぐみの心は揺れた。
赤い糸に手がかかった。
そのとき駆けつける柴田。


「つぐみに何をさせようとした。答えろ閻魔あい!」

そして一目連と骨女。

「もうやめとくれよ、お嬢。こんなことしたって…」

「だまれ」

あゆみの事故現場。

「かわいそうなお母さん。全部あの人のせいよ」

「あなたが裁くのよ」


つぐみは柴田を見つめた。

「俺が死ねばよかったんだ」

柴田は泣き崩れ、つぐみにあやまった。

「後悔なんて意味無いわ。失ったものはもう戻らない」

「糸を解きなさい。わたしが、怨みを晴らしてあげる」


「俺が悪いんだ。つぐみもつらかったろ。寂しかったろ」

「さあ、糸を解きなさい」

つぐみの瞳から涙があふれた。

「バカー!」

「あたし、つらいなんて思ったことなかったもん。はじめちゃんといて楽しかったもん」

「はじめちゃんは楽しくなかったの?一緒に笑ったの嘘だったの?」


つぐみは柴田を抱きしめた。

「お母さんいなくて寂しいときもあったけど、はじめちゃんが、お父さんがいてくれたから、あたし大丈夫だったんだよ」

「ああ楽しかった。お前といるだけで俺は幸せな気持ちになれた」

桜のある滝。
わたしに仙太郎との楽しかった記憶がよみがえった。

…笑いあっていたあの頃。


「これ、いらない」

つぐみは藁人形を返した。

「好きだったんでしょ、仙太郎さんのこと。あの人も、ずっとあなたのことが好きだった。だから、ずっと後悔してた。それで、あのお寺を…」

桜の花びらが舞っている。
わたしの瞳から涙が流れた。

七童寺。
わたしは寺を燃やした。

頬を伝う涙。


「行くよ。さあ」



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