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バレンタイン
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その日はテンパリングの練習をあきらめ…というか、調理室を使うのが嫌でやらなかった。


そして日が沈み、あっという間に昇る。



「ふわぁあぁぁあ…」


俺は大きく欠伸をしながら調理室の扉を開ける。

いつも、同室の花房より早く起きてテンパリングの練習をするんだが…今日はバレンタインの前日ということを忘れていた。

****

扉を開くと、大好きなチョコレートの香りが体をすり抜けた。

良い香りだ………。


チョコの香りにうっとりとしていると、泡立て器をかき混ぜる音がした。


「あ…」


「かっ…かか樫野!」


窓ガラスから差し込む光が眩しく感じる目で声がする方に目を向けると、そこには目を丸くした天野がいた。

急な出来事に嫌な汗が全身から出始める。


「お前…今日はいつもより早いな……」


俺はぶっきらぼうに発言する。

「かっ樫野はいつも通り早いんだねー」

ヘラヘラと笑いながら、天野は泡立て器をかき混ぜる。



「…お前」

俺は天野に近寄った。

「へ!?」

「混ぜすぎだ。中のチョコレートが少し固まってる」


そう言うと、俺は天野から泡立て器とボウルを取って、ヘラで中のチョコレートを手際よく溶かした。
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