2/6ページ目 『ユーグ、貴方はとても優しい人ね』 そう言って柔らかく微笑んだテレシア。 …彼女は最後まで気付かなかったのだろうか? その優しさが彼女ただ一人にしか向けられていなかった事に。 今更ながら思う。 会わなくなってどの位経ったのかさえ考えたくないけれど。 「……テレシア」 彼女が選んだ男と何ら変わらない、真摯な想いは未だにこの胸に閉じ込めたままだ。 誰よりも美しく、慈愛に満ちた心を持った女性。 多くの出会いを繰り返した今も、彼女より輝くものはない。 彼女の面影を重ねては、その違いに失望するだけ。 あれほどにも愛せる人なんて二度と出会えるはずもないのだから。 なのに、 「……もう、貴方はいないのですね…」 激しい悲しみに包まれた自分の心。 総てを失ったかのような錯覚を与えるほどに、その事実は胸を撃ち抜いた。 自分の心を優しく奪い、今も放さない女性-ヒト-の死という痛い現実。信じたくない思いの方が遙かに強いが、その情報に偽りなどありはしないのだろう。 「…なのに、貴方への恋情はそれでも募るばかりだなんて、滑稽…ですね…」 悲しげな微笑み。無意識に溢れる涙。 彼女への想いを包み込んだ涙は何よりも美しく、そして想いの深さほど悲しい。 手に握る一輪の花。 それは彼女の花。 純潔のユリの花。 …その花を見るたびに彼女を想った。 「…今死ねば貴方に会えるのでしょうか」 『生』の執着を失う。 彼女のいない世界に何の価値があるのだろうか。 絶望感が心を満たす。 傍に寄り添えなくても、彼女は唯一の女性-ヒト-だった。 彼にとって彼女こそが『神』と呼べる絶対的な存在だった。 誰かを想うという温かな気持ちを教えてくれ、そして彼を優しく包んでくれた彼女。無償の愛とも呼べる綺麗なものだけを彼女は持っていた。 それは簡単に壊れてしまうような、繊細でいて儚いものに見えた。けれど、実は誰よりも強く決して歪まない確かなものだったのだろう。 きっとユーグよりも遙かに強い。 前だけを見つめていた優しくも強いあの眼差し。 穢れのないあの瞳。そんなはずはないのに、彼の眼には純粋なものだけで出来ているように映った。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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