作品集【小説】

【-…sweet…-】無幻童
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【-The sweet daybreak-】第1章


いつからだろう、夢を見なくなったのは。

いつからだろう、涙を流さなくなったのは。

いつからだろう、彼の背中を追っていたのは。

いつからだろう、彼に守られていたのは。

いつからだろう、こんなにも人恋しくなったのは…いつからだろう…。


沢山のいつからだろうと思うものがある。今見ている夢は多分最近のもの。
 夢の中は真っ白。夢の中では彼と私。夢の中では彼の顔を見る事は出来ない。
唯、広く大きな逞しい背中が自分を比護しているようだった。
嬉しくて、恥ずかしくて、切なくて。
 夢の中では彼の背中しか見えない。でもきっと解っていた。
守られていたという事。
涙で潤んでいる瞳でも彼の背中しか見えなくても、解っていた。彼が傷だらけだって事。彼が誰かを愛しているという事。ぶっきらぼうだけれど本当は誰よりも優しいって事。
 夢の中の自分はいつも泣いている。何でかなんて聞かないでほしい。何でかなんて自分でも知らない。解ってもしょうがない。夢だし。
 唯一つ、自分が理解し言える事は、この世界では彼と二人きりだって事。
真っ白な世界で唯涙する自分とそれを守る傷付いた優しい赤い騎士(knight)
嬉しくて、恥ずかしくて、切なくて。
目を覚ますと現実でも泣いていた事に気付いて、恥ずかしくて切なくて。

夢から覚めても世界は白い。
ベッドも机も椅子も窓もドアも。
この世界では自分しか居なくて、切なくて。
こんな夢を見るようになったのはいつからだろう…
前言撤回。『今見ている夢は多分最近のもの』と言ったのを撤回しよう。
この夢もまた、"いつから"なのか解らない。

「っぁ…?」

目が覚めたのは夢を見ているのが嫌だったのか、それとも泣き疲れたからなのか。…心臓がいつもより速く鼓動している。
辺りを見回す。いつもとかわらない白い世界。
でも、今日だけはいつもと違った。"独りではない"という事。
「怖い夢でも見たか?…」

隣に彼が居たという事。独りではない。

「何…で?」

いつもは隣に居るはずのない人物。隣に彼が居る。
「いちゃ悪いか?」優しいが強い力でベッドの中へ引き戻される。
 夢のせいで飛び起きて強張っていた体の筋肉が一気に弛緩し、ベッドへ倒れこむようにして彼の隣に寝そべった。結果、彼と視線がぶつかり合う羽目になり、恥ずかしさのあまりにきつく目を閉じる事になった。顔が熱い。
寝る訳でもなくきつく閉じた瞼は不自然に震え、本人の意志とは関係なく深い翠のような碧の瞳を露わにする。
そんな事を繰り返し何度目か、唐突に彼の腕に頭を引かれ彼の唇に額がくっつくのがわかった。

「ちょっと!?何して…」
振り払おうとした手は簡単に彼の腕に捕まえられ動けなくなる。

「怖い夢見たんだろ?…お子様だな…」

言いながら彼の唇は額から瞼、目尻、頬へと順に口付けていく。
嬉しいけれど恥ずかしい。

「子供扱いするなっ…」

「寂しかったろ?起きた時独りなのは。正直に言えって」
『俺に会いたかっただろ』と、少しからかう様な笑い。
少しきつく抱き締められる。
心の中を見透かされた気がした。
夢から覚めて独りが嫌だったのは確か。夢でなく本物の彼に会いたかったのも確か。
彼の腕の中で弱くなっていく。自分が子供だと思い知らされる。悔しいけれど今は幸せ。
自分が夢から覚めたのが夜明け前だという事を窓の隙間から覗かせる薄暗い空に知らされ落胆する。
二度寝はしたくない。夢を見るのが怖い。
何かに怯える自分に気付いたのか、彼は私の頭を撫でる。

「まだ夜明け前だ…寝ちまえ」

…こんな子供扱いも悪くない。彼の体温と抱き締められている腕の力強さに安心する。きっと眠りにつくのにそう、時間はかからない。
眠りにつく前、密かに考える。

『明日は休日、彼とどこに行こう…』


The sweet daybreak…
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